プロダクトが成長していく中で、機能が追加されていくことは、ほとんど避けられません。ユーザーはより便利な機能を求め、ビジネス側はプロダクトの価値を広げようとし、マーケティングはエンゲージメントの向上を目指し、プロダクトチームは常に新しいアイデアで体験を改善しようとします。
しかし、ここには少し興味深い逆説があります。機能が多ければ多いほど、良いプロダクトになるとは限りません。 機能が適切に整理・優先順位付けされていなければ、新しい機能が増えるたびに、プロダクトは理解しづらく、使いづらくなってしまいます。
例えば、フードデリバリーアプリを想像してみてください。最初は、料理を探して、カートに入れて、支払うだけで十分です。しかし時間が経つにつれて、クーポン、ポイント、会員制度、セットメニュー、おすすめ料理、時間帯限定のキャンペーン、複数の決済方法、スピード配送、事前注文……といった機能が追加されていきます。
これらの機能には、それぞれ存在する理由があります。しかし、それらがすべて同じ画面に表示されると、ユーザーは単に「何を食べたいか?」を考えるだけでは済みません。本来なら非常にシンプルなタスクを完了するまでに、多くの選択肢を処理しなければならなくなります。

これは、**Hick’s Law(ヒックの法則)**で説明される問題の一つです。Hick(1952)の研究では、選択肢の数が増えるにつれて、反応時間も増加する傾向が示されました。プロダクトデザインでは、この原則をシンプルに言えば、ユーザーが選択しなければならない選択肢が多いほど、意思決定は難しくなると考えることができます。
ただし、問題は「機能が多いこと自体が悪い」ということではありません。銀行システム、企業向けの業務管理ソフトウェア、デザイナー向けのツールなどには、当然ながら多くの機能が必要です。
重要なのは、ユーザーがそれらすべての機能を同時に見て、処理しなければならないのかどうかということです。
ここで重要になるのが、Information Architecture(情報設計)と、体験全体の整理です。プロダクトに何百もの機能があったとしても、ユーザーが現在の目的に合った選択肢だけを提示されるのであれば、使いやすさを維持することができます。
高度な機能や利用頻度の低い機能は、メイン画面にすべて表示するのではなく、より深い階層に配置することもできます。この考え方は、一般的に Progressive Disclosure と呼ばれます。これは、システムが持つすべての機能を一度に見せるのではなく、ユーザーが必要とするタイミングで、必要な情報や操作だけを提供するという考え方です。
もう一つの問題が、**choice overload(選択過多)**です。選択肢が多すぎると、ユーザーは意思決定をしづらくなることがあります。
IyengarとLepper(2000)による有名な研究では、ある条件下において、より少ない選択肢を提示された人のほうが意思決定を行いやすく、自分の選択に対する満足度も高くなることが示されました。
これはデジタルプロダクトでもよく起こります。ある機能が非常に便利だからといって、必ずしもメイン画面に表示する必要があるとは限りません。また、パワーユーザーにとって重要な機能が、新規ユーザーにとって必要とは限りません。
だからこそ、デザイナーが考えるべき問いは、**「プロダクトにはどんな機能が足りないのか?」**だけではありません。
それと同時に、**「ユーザーは今、どの機能を必要としているのか?」**と問いかける必要があります。
私は、これもUI/UXの仕事において特に難しいポイントの一つだと思います。「この機能を追加してください」と依頼されたとき、そのための画面を新しくデザインすることは、実はそれほど難しくありません。
それよりも難しいのは、「そもそも、この機能は本当に必要なのか?」と問い直すことです。
しかし、すべての要望をそのままプロダクトに追加していけば、インターフェースは徐々に複雑になり、ユーザーフローは長くなり、ユーザーが判断しなければならないことも増えていきます。
だからこそ、デザイナーの役割は単に**「追加すること」**ではありません。
優先順位をつけ、グループ化し、隠し、そして時には削除することも、デザイナーに求められる重要な仕事です。
良いプロダクトとは、必ずしも最も多くの機能を持つプロダクトではありません。
ユーザーが本当に必要としているものを、素早く見つけ、実行できるようにするプロダクトです。
時には、良いデザインとは新しいボタンを追加することではありません。
「どのボタンを表示しなくてもいいのか」を判断できることなのです。
参考文献
Hick, W. E. (1952). On the rate of gain of information. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 4(1), 11–26. https://doi.org/10.1080/17470215208416600
Iyengar, S. S., & Lepper, M. R. (2000). When choice is demotivating: Can one desire too much of a good thing? Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 995–1006. https://doi.org/10.1037/0022-3514.79.6.995
Nielsen, J. (2006, December 3). Progressive disclosure. Nielsen Norman Group. https://www.nngroup.com/articles/progressive-disclosure/