プロジェクトの背景
養豚場での頭数カウントと管理は、毎日繰り返される作業です。目視やカメラ映像の確認に頼ると、時間がかかるうえ頭数が多いほど誤差が生じやすく、頭数の異常が発生してもその瞬間には気づけません。VAONは、既存のカメラ設備を活用してリアルタイムに豚を検出・追跡・カウントするPoC(概念実証)を構築しました。AIを用いた養豚場監視ソリューションの技術基盤とする取り組みです。
課題
手作業でのカウントは時間がかかり、頭数が多いほど誤差が生じやすい
目視やカメラ映像の確認には毎日スタッフの時間がかかり、頭数が多い、あるいは豚が動き続ける状況では精度が大きく低下します。頭数のズレは、多くの場合発生した瞬間ではなく、後になってから発覚します。
密集した豚舎内での遮蔽は、家畜向けコンピュータビジョンで最も難しい課題
天井から豚舎を見下ろすカメラでは、個体同士が絶えず重なり合い、遮蔽し合います。これはあらゆる画像認識によるカウントシステムにとって最も難しい条件であり、豚のカウントに限った話ではありません。一部が遮蔽された個体は、再出現した際にカウント漏れや二重カウントが発生し得ます。
「正確なカウント」と「異常の監視」を混同してはならない
すべての状況で絶対的な数値が必要なわけではありません。密集した豚舎では、前回との差分を検出すること(異常の早期アラート)のほうが、遮蔽下では実現困難な正確な数値そのものよりも実用的な価値を持ちます。
VAONのソリューション
固定カメラ上でリアルタイムの検出・追跡パイプラインを構築し、個体ごとにIDを付与しながら、フレーム上でカウントを継続的に更新しました。
1つの数値にまとめるのではなく、信頼度の異なる2つのシナリオに分けました。ゲート通過時のカウント(通路など固定地点を通過する形式)は高精度な数値として、密集した豚舎内でのカウントは絶対数ではなく、差分の検出・異常アラートのための信号として位置づけています。
単一モデルであらゆる条件下で高精度を狙う代わりに、この方式を選びました。家畜向けコンピュータビジョンにおいて、群れの中での遮蔽は単一カメラの物理的な限界であり、アルゴリズムの欠陥ではありません。シナリオを分離することで、それぞれを実際にできることに基づいて正しく評価できます。
デモ映像で直接検証しました。個体数の少ない豚舎(7頭、遮蔽が少ない)では追跡が安定しており、密集した豚舎(24頭)でも機能を維持しています。遮蔽から再出現した個体にIDが再割り当てされる現象も確認しており、推測ではなく実データに基づいて限界を評価しています。
ゲート通過時カウントを本番運用に進めるための条件を明確にしました。実際の農場条件(カメラ角度、照明、豚の品種)に合わせてラベル付けした画像データセットが必要であり、これによりコミット可能な精度でモデルを学習できます。本PoCは技術的な実現可能性を証明する段階であり、特定の農場には紐づいていないため、この工程はまだ実施していません。
公開範囲を正確に記載します。本PoC時点での制約は4点です。密集した豚舎内のカウントは、遮蔽により再出現した個体へ新しいIDが割り当てられることがあるため、正確な数値ではなく異常監視の補助という位置づけです。特定の農場向けの学習データセットはまだなく、コミット可能な精度を出すにはその農場のカメラ条件・照明・品種に合わせたラベル付き画像が必要です。粉塵、高湿度、夜間の不均一な照明といった実際の農場環境のノイズ対策は、デモ環境を超えた検証が必要です。また本PoCの範囲は検出とカウントのみで、体重推定・体温異常の検知・行動分析は異なるカメラとデータを要し、範囲外です。
提供価値
ゲート通過時カウント: 精度95〜98%、正式な数値として十分な信頼性
固定地点(ゲートや通路)を通過する豚を対象とした場合、システムは95〜98%の精度を達成しています。検証済みのライン交差方式に基づき、農場の正式な照合数値として利用できる水準です。
密集した豚舎でのリアルタイム追跡、頭数の異常アラートに活用
デモでは、密集した豚舎内で20頭を超える個体を同時に検出・ID追跡し、フレーム上でカウントをリアルタイムに更新できることを示しています。このシナリオの実用的な価値は、前回との差分を早期に検知することにあり、正式な数値を置き換えることではありません。
既存のカメラ設備を変更する必要がない
本パイプラインは、現在多くの農場で一般的な、天井に固定設置されたカメラのアングルで動作します。PoCの実行にあたり、専用カメラの導入や豚舎レイアウトの変更は不要です。